| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
企画集会 T16-2 (Lecture in Workshop)
山岳域の標高という環境傾度は、緯度と同様の環境変化と多様性の変化が空間的に狭い範囲で観察でき、各山岳域での繰り返し検証が行えるというメリットを持つ。そのため、生物多様性のパタンと形成プロセスを理解する上で重要なモデルと考えられている。世界中の山岳域でのパタンとプロセスを集約したメタ解析は、多様性形成メカニズムの一般性と各地域の環境や歴史を考慮した独自性を追求することができ、この基礎となる地域の生物多様性の情報は、生物多様性のパタンや形成プロセスを理解する上で重要な意味を持つ。
こうした情報を発信していく上で、地域で蓄積・集約された標本が重要な役割を持つ。長野県では長野県植物研究会を中心とした標本の整理とデータベース化が進んでおり、およそ30万点分の植物標本データが整理されている。この標本データベースを利用した地域の標高に沿った生物多様性に関して、以下二つの研究を報告する。
(1) 外来植物の山岳域への進出は、在来の植物種に対して大きな影響を与える。外来種の場合、在来種よりも歴史的な背景が少なく、人為的な影響が多様性に大きな影響を与えるため、短い時間的スケールにおける多様性の変化が、侵入・定着を考察する上で重要である。本研究において、長野県の標本情報が持つ採集年月日を利用することで、ある外来種がいつどこに初めて侵入したか読み取り、多数の種の情報を統合することで、長野県の標高に沿った外来植物の侵入動態の大枠を明らかにした。
(2) 標高に沿った生物多様性を評価する上で、種数のみ評価した種多様性パタンは、種が持つ系統的情報を無視しているため、多様性形成プロセスを理解する上で、系統的多様性を考慮することが必要である。本研究では、シダ植物に対して標本情報を用いた種多様性のパターンだけでなく、系統情報を用いた系統的多様性を明らかにするとともに、解析対象の範囲により系統的多様性が揺らぐことを明らかにした。