| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


企画集会 T17-1  (Lecture in Workshop)

「植物から考えてみた」 イントロダクション: 森林の炭素循環ミステリーとは?

*大塚俊之(岐阜大学)

温帯地域で、森林の炭素循環とNEPについて長年研究を行っているサイトとして Harvard ForestとTakayama Forestがある。渦相関法によるNEPは前者で2.42±1.0 ton C ha-1 yr-1、後者で2.59 ± 0.6 ton C ha-1 yr-1とほぼ同等であった。Harvard Forestの樹木成長量 (WI) は地上部だけで平均約2 ton C ha-1 yr-1に達し、森林が吸収した炭素は主に樹木の幹や枝として貯められていた。しかし、Takayama Forestでは樹木地下部を含めても WI はわずかに1.3 ton C ha-1 yr-1で、1haあたり毎年2トンC以上の吸収があるにもかかわらず、枯死木も多く11年間で4トンCしかバイオマスは増加しなかった。グローバルスケールでのミッシング・シンクが、主に北半球の中緯度・高緯度地域での森林バイオマス増加によって説明される一方で、Takayama Forestでの長年の研究は、吸収された炭素の半分がバイオマス以外の何処かに貯められていることを示した。このプロットスケールでの新たなミッシング・シンクは、黒ボク土の上に成立した日本の森林の大きな特徴なのだろうか。この「炭素循環ミステリー」の解明のためには、植物リターによる入力と土壌呼吸による出力の収支という土壌炭素 (SOC) プールをブラックボックスとした従来の研究ではなく、植物遺体を含むSOCプール内のプロセスに基づいた新たな研究が必要であろう。この企画集会ではSOCプールへの短期的な炭素蓄積の定量的評価と、黒ボク土での炭素蓄積の制御を明らかにする手法を探索するために、1) 微生物の視点、2) 溶存有機物の視点、3) 土壌有機物の視点から三人の専門家に話題を提供してもらう。


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