| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
企画集会 T17-2 (Lecture in Workshop)
森林生態系における「炭素循環ミステリー」、すなわちプロットスケールでの炭素のミッシング・シンクを解くカギは土壌圏にある。そして、土壌圏における炭素蓄積を考えるためには、土壌圏へのインプット(主にリターフォール)とアウトプット(従属栄養生物による分解呼吸)のバランスを考える必要がある。本発表では、アウトプットを担う土壌微生物に着目し、土壌圏に多量の炭素を蓄積している高山(たかやま)サイトとその他のサイトを比較し、土壌圏での炭素蓄積について考えたい。
まず、野外で観察された土壌呼吸速度(または従属栄養生物呼吸)の値を、リターフォール量や土壌有機炭素量、さらには他サイトの値と比較したところ、高山サイトにおけるこれらの呼吸量は、高山サイトが持つ巨大な土壌有機炭素プールの割には低く、有機物分解速度が低い可能性が考えられた。しかし、リターバッグ法によってリター分解速度を調べた結果では、高山サイトにおけるリター分解が特に遅いということはなかった。また、鉱質土層の表層5 cmにおける土壌有機物の分解について考えるために、分解の担い手である土壌微生物群集の諸特性についてサイト間比較を行った。しかし、単位土壌有機炭素あたりの微生物バイオマスや呼吸速度、呼吸活性などは、いずれも高山サイトとその他のサイトの間で大きな差は無く、高山サイトの有機物分解活性が特に低いとは言えなかった。
このように、土壌微生物の視点から見た高山サイトの土壌圏からの炭素アウトプット(有機物分解)は、当初の予想に反して、決して小さいものではなかった。今後は鉱質土層のより深層における土壌有機物の蓄積や分解プロセスを考慮する必要があるだろう。また、仮にアウトプットとしての有機物分解速度にそれほど大きな差がないとすれば、現時点で考慮されていない炭素インプット経路(土壌圏にとってのミッシング・ソース)の存在を疑う必要もあるかもしれない。