| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
企画集会 T17-4 (Lecture in Workshop)
ここでの「水」とは土壌水のことであり、土の孔隙中に存在する水のことである。気候や地形によって異なるが、日本の森林土壌では体積の凡そ1/3を水が占めると考えてよい。森林を緑のダムと呼ぶのも土壌孔隙が水を貯えることができるためである。土壌水は様々な溶質を溶かし込んだ土壌中の溶液相であり、土壌中で生物相、鉱物質相および気相との関わりが深い。すなわち、土壌中で極めて反応性の高い相に相当する。特に、土壌溶液中の有機成分を溶存有機物(DOM)と呼んでいる。DOMの大部分は、森林の地表面を被覆する堆積腐植層(リター層、O層またはA0層)から供給されており、土壌動物や微生物による代謝産物や植物体分解残渣を含んでいる。DOMの一部は、無色の易分解性有機物であり、容易に無機化される。一方、生分解性が低く、鉱物との反応性が高い着色成分も含んでいる。ここでは、土壌中への有機物の蓄積に対する、DOMの貢献について、特に黒ぼく土に着目してその反応性から考えてみたい。
土壌水が下方に移動する下方浸透系の土壌では、リター層から供給されたDOMは鉱質土壌と接触し、吸着反応を通じて鉱質土壌に保持される。一部は微生物によって無機化されるが、その割合は比較的小さいと考えられている。吸着反応は鉱質土壌の鉱物組成に大きく影響を受ける。粒径が小さいと補足される有機物含量は大きく、粗いと逆に流出が大きくなる。また、一次鉱物よりは粘土や酸化物である二次鉱物との反応性が高く、二次鉱物含量が高い鉱質土壌でよく保持される。すなわち、鉱物の比表面積や鉱物組成がDOMの動態を支配しており、土壌によってDOMの平均滞留(保持)時間が異なることを示している。これまでに下方浸透系の土壌におけるDOMの保持について検討されているため、それらの研究成果からDOM吸着反応における特徴を紹介し、量と質の両面から黒ぼく土におけるDOMとしての有機物保持を考察する。