| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) A02-04  (Oral presentation)

トキにおける放鳥個体と野生生まれ個体の繁殖成績の比較

*油田照秋(新大 朱鷺・自然再生), 中津弘(新大 朱鷺・自然再生), 岡久雄二(環境省 佐渡事務所), 永田尚志(新大 朱鷺・自然再生)

希少種の保全生態学において、対象となる個体群の繁殖成功率は生存率と共に最も重要視される。再導入による野生復帰を目指すトキ(Nipponia nippon)は、2008年の第一回放鳥からこれまでに計17回、289羽が放鳥されている。また2012年に初めて野外での繁殖成功が確認されて以来、繁殖成功率も向上しており、特に昨年は計77羽の巣立ちを確認した。野生個体の数は現在(2018年2月)約290羽と急増しており、トキにとっての環境は近年大きくに変動している。本研究では、トキの繁殖成功率に影響している要因を調べるため、放鳥個体と野外生まれ個体の繁殖成績を比較した。データは、佐渡島で繁殖行動が確認された2010年から2017年の繁殖期に環境省、新潟大学、地元ボランティアによって行われたモニタリング調査を基にした。これまでに確認された営巣数は292巣あり、そのうち放鳥個体同士のペアは228巣、雌雄どちらかが野外生まれ個体のペアは52巣、野外生まれ個体同士のペアは19巣あった。繁殖成功率はそれぞれ、25.3%(全体)、18.9%(放鳥同士)、40.4%(雌雄どちらかが野外生まれ)、52.6%(野外生まれ同士)であり、放鳥個体と野外生まれ個体の繁殖成功率に明らかな差があった。トキは、冬から春にかけての繁殖期前にペアを形成し偽交尾や巣材渡しなどの繁殖行動を繰り返す。また、非繁殖期には基本的に群れで行動する社会性を持つ。放鳥個体は、飼育下でこのような繁殖や群れ行動を学べなかった可能性がある。また、経験のある個体の方が繁殖成功率が高くなる傾向からも、巣作りなどを含む繁殖行動の学習が重要だということが示唆された。今回の結果から、トキのように社会性があり複雑な繁殖行動を持つ動物の再導入において、より早く野外生まれ個体を増やすこと、また繁殖成績が安定するまでの長い期間の順応的管理の重要性が確認された。


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