| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) A02-11 (Oral presentation)
環境改変と生物の絶滅との間には時間的なずれが生じる場合がある。特に長寿命種は、こうした絶滅の遅れを示すことがあり、その現状を把握することが保全上重要である。河川性二枚貝カワシンジュガイ属は、寿命が50年を超える生物である。国内には、互いに近縁で外形の似たカワシンジュガイとコガタカワシンジュガイが生息する。近年、世界中の本属個体群において、稚貝(殻長<20 mm, 約10–20歳)の欠落が確認されている。これらの個体群は、再生産の衰退により将来的に絶滅する可能性が高く、稚貝欠落は本属の絶滅の遅れの指標と考えられる。しかし、国内における本属2種の稚貝欠落の状況を詳細に把握した研究は少ない。本研究では、北海道東部を対象に①2種の非致死的な種同定法を確立し、②各種・個体群の稚貝欠落の状況を把握することを目的とした。
非致死的な種同定法を確立するため、29河川で各5–43個体のカワシンジュガイ属を採集し、遺伝学的手法による種同定を行った。また、種間で3つの形態値(殻高/殻長、殻幅/殻長、殻幅/殻高)を比べて、最も2種の違いを特徴づけた殻高/殻長を用い、4つの殻長範囲(0–20, 20–40, 60–80, 80–100 mm)において同定成功率が最大となる値を探した。結果、殻高/殻長が0.50–0.54の時に同定成功率が88–96%に達し、その値と成功率は殻長範囲で異なった。
稚貝欠落の状況を把握するため、24河川(各2区間、計48区間)でカワシンジュガイ属を採集した。各区間に15のコドラート(30×30 cm)を設け、河床を10 cmまで掘ってそこに含まれる2 mm以上の個体を採集した。採集個体を上で得られた殻高/殻長に基づいて同定し、各種の殻長頻度分布を作成した。結果、カワシンジュガイが22河川、コガタカワシンジュガイが24河川から確認され、そのうち稚貝が見つかったのはそれぞれ3河川、9河川と少なかった。以上より、北海道東部では、本属2種の絶滅の時間的な遅れが広く発生している可能性が高い。