| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) I02-04 (Oral presentation)
生物の体表面は、環境への適応進化の結果として、様々な微細構造を示し、その精巧なデザインはバイオミメティクス(生物模倣)などの工学的な視点からも注目を集めている。その中でも、濡れ・汚れを防ぐ撥水構造はよく研究がされており、水滴が玉のように転がるハスの葉の表面に存在する微小突起や、水に浮かぶアメンボの脚表面に生えている微小毛などが例として挙げられる。
社会性アブラムシの巣であるゴールは防衛・摂食に適した閉鎖的環境だが、その一方でゴール内に蓄積する排泄物である甘露の付着を防ぎ、除去することが必要となる。ケヤキの葉に形成されるボタンヅルワタムシ属のゴールにおいて、その内壁に無数の微小毛(トライコーム)が存在することを発見した。操作実験の結果、その微小毛とアブラムシが分泌するワックスによって内壁表面に形成される微細構造が強い撥水効果を示し、甘露の巣外への排出を容易にすることが明らかになった。また、ワタムシ亜科の他属も含めた比較を行った結果、ゴール内壁の表面構造は宿主植物ではなくアブラムシの系統によって決定されること、加えてゴールの撥水性・吸水性はゴールの閉鎖性と関連しており、完全閉鎖ゴールの内壁表面は吸水性を示すことが明らかになった。これらの結果は、昆虫が植物組織の表面構造を操作・改変することで、自らの巣に適した排泄物処理機構を得ていることを示唆している。