| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) I02-11 (Oral presentation)
野生動物の研究において「何をどのように食べているのか」は最も基礎的かつ重要な情報である.これまでの採食研究では,糞分析法や食痕調査法などが用いられてきた.しかし,これらの手法の多くは多大な調査コストを必要とするため新たな調査手法の確立が俟たれている.近年,自動撮影カメラが野生動物の研究に広く普及し,低コストなデータ取得が可能となりつつある.とくに最近の自動撮影カメラは動画撮影も可能であり,採食研究にも応用できる可能性がある.そこで本研究では,群馬県利根郡武尊山において,草食動物の採食物及び部位を自動撮影カメラによって定量的に評価できないかを試みた.2016年5月から10月及び2017年6月から10月にカメラを設置し,ササの採食行動が撮影された動物の採食回数をカウントした.採食行動が撮影された動物種とその枚数はニホンジカ(n = 226),ニホンノウサギ(n = 369),ニホンカモシカ(n = 1),ニホンザル(n = 17)であった.採食が多く確認されたシカとノウサギにおける部位ごとの採食回数は,シカは葉部111回,稈部29回,未成熟幼齢ザサ葉部67回,未成熟幼齢ザサ稈部17回であった.ノウサギはそれぞれ92回,128回,72回,66回であった.カイ二乗検定及び残差分析の結果,シカは葉部,ノウサギは稈部を有意に高い割合で採食していた.各部位の栄養分析の結果,稈部は葉部と未成熟幼齢ザサにくらべて粗タンパクなどの栄養分の含有割合が低かった.採食部位の地面からの高さを測定した結果,シカは80cmまでの高さを利用していたがノウサギは50cmまでしか利用できないことがわかった.以上の結果から,本調査地に生息するノウサギは,体高による採食可能な資源の制限によって低栄養価な採食物を利用していることが分かった.ノウサギは,食糞を行うことで低栄養価な採食物に適応しているのではないかと考えられた.本研究から,自動撮影カメラは採食研究においても高い可能性を持っていると考えられる.