| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-251 (Poster presentation)
棚田は、日本の中山間地域を代表する景観構成要素の1つであり、多様な生物の生息地として機能している。過疎化や高齢化に伴い棚田の耕作放棄が進む中で、農業生産と生物多様性保全との両立を目的とした棚田の保全再生に注目が集まっている。既往研究では、棚田の位置に応じて、土壌水分や養分の傾度が存在し、地上植生における希少植物の分布に影響を与えていることが指摘されている。しかし、棚田の位置による土壌水分条件の差異が、耕作放棄後の植生や埋土種子組成に与える影響については、未だ不明な点が多い。本研究では、同時期に耕作放棄された1群の棚田を対象として、耕作放棄前後(放棄年数4年)での田面および法面での植生と埋土種子相の調査を行い、棚田の上部から下部にかけての土壌水分条件の違いが耕作放棄後の埋土種子組成に与える影響を検討した。植物群集データを用いた序列化の結果、放棄後の法面の埋土種子組成は放棄後よりも放棄前の畦畔や法面の植生の種組成に近かった。放棄後の田面の埋土種子組成は、放棄前の畦畔や放棄後の田面の植生の種組成に近かった。一般化線形モデルの結果、田面の中層(深さ5-10cm)と下層(深さ10-15cm)の土壌含水率が、棚田の位置と有意な関係性を示し、棚田の下部ほど土壌含水率が高い傾向が確認された。また、田面の埋土種子相は、種数、個体数ともに棚田の位置と有意な関係性を示し、下部にいくほど種数および個体数が増加する傾向が確認された。以上より、棚田の位置の違いは田面における耕作放棄後の埋土種子組成に影響を与えうることが示唆され、棚田の保全再生を考える上での重要な要因の1つになると考えられた。今後は、土壌水分条件のみならず土壌理化学性の違いによる影響についても合わせて検討する必要がある。