| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-254 (Poster presentation)
アキアカネは水田で繁殖する赤トンボのなかまで、田園風景の象徴ともいえる普通種であった。しかし、2000年前後に日本各地で激減したことが報じられた。その主要因として疑われているのが、1990年代後半に出荷量が増加したネオニコチノイド系やフィプロニルなどの新型の浸透移行性殺虫剤である。これらの殺虫剤はヤゴに対して実用薬量で強い毒性を示すことがわかっており、特にアキアカネの激減時期はフィプロニルの出荷量増加時期と一致している。しかし、これらの殺虫剤の実際の育苗箱施用量がアキアカネの個体群動態に与える影響は未解明である。そこで本研究では、アキアカネの個体数のモニタリングと殺虫剤の育苗箱施用量の集計を行ない、両者の関係を分析することを目的とした。
アキアカネの個体数を定量化するため、新潟県、富山県、石川県、福井県において、2009年から2016年まで、毎年9月~11月に各1~6回調査を実施した。午前中に各県内を自動車で走行し、前方を通過したアキアカネの連結飛翔個体(タンデムペア)の数を計測した。つぎに、「農薬要覧」のデータから、近年に育苗箱施用剤として流通した主要な殺虫剤9種について、谷地ら(2016)の手法を用いて各年の育苗箱施用量を推定し、作付面積当たりの施用比率(普及率)を求めた。
調査の結果、年次変動が大きかったが、新潟と福井では、富山と石川に比べアキアカネの個体数は大幅に多い傾向にあった。普及率が10%以上あった育苗箱施用剤5種について、普及率の増加量とアキアカネ個体数の増加率との関係を分析した結果、フィプロニルの普及率とアキアカネの個体数変動に有意な負の関係があることが示された。しかし、普及率の値は各県で最大20~40%程度であったため、近年のアキアカネの減少の主要因となるかどうか、各農薬の毒性の評価や他の要因も含めた解析が今後必要だと考えられた。