| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-259 (Poster presentation)
埼玉県加須市「浮野の里」において、絶滅危惧類ノウルシEuphorbia Adenochloraの分布状況と湿地の存在様態との関係を検討した。当地区は利根川中流部の農村域で、地下の埋没谷から水が湧き出しているため過湿地となり、水田化されなかった湿地が点在しており、かつては茅の採取地として利用されてきた。2016年春季の調査で、規模のある生育地が3箇所、小さく点在する生育地が5箇所で確認され、群落面積は合計約2,900㎡となった。1940年代後半以降の航空写真との比較より、規模のある生育地はいずれも耕作不適地として湿地が維持されてきた場所と重なっていた。一方、休耕田化に伴い生じた湿地での生育地は小規模な1地点のみに止まり、他の小規模な生育地は小河川土手や素掘り水路の岸であった。本地区では住民により組織される「浮野の里・葦の会」が中心になり、ひと時中断していた湿地の野焼き活動が1997年より再開され、継続している。会活動の当初のシンボル的な植物はトキソウであり、保護増殖活動が盛んに行われて、現在県天然記念物となった。一方、野焼き再開に合わせて、湿地に自生しかつ春期に特徴的な群落景観を呈するノウルシに強く関心が向けられるようになった。地域の湿地を代表する景観植物資源であることを認識し、開花時期には来訪者向けのPR活動も行っていた。そして野焼きによる陽光の半自然草地の維持という生態学的な効果の有無とは別に、むしろ葦の会メンバーが「自分たちが野焼きを継続することでノウルシの生育地が守られている」と認識している点が重要と考えられた。そこでは、①野焼き作業→②景観資源としてのノウルシ群落の保全→③外部からの来訪者による地域の評価→④葦の会メンバーの地域への誇り→①…、という循環的フローが成立していた。謂わば在来野草類の景観資源化であり、外部来訪者の地域評価も意識しつつ、野焼きといった地域の伝統的な湿地管理手法によって生育地保全がなされていた。