| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-268 (Poster presentation)
近年、環境水中のDNA(環境DNA)を分析して簡便に水生生物を検出できる環境DNA分析が注目されており、新たな調査ツールとして普及しつつある。しかし、環境DNA分析にはその由来や、生死を含めた生物の状態、そして放出後の時間が不明といった未解明の問題がある。これらの問題の解決は環境DNA分析が信頼に足る調査ツールとして普及する上で不可欠である。他方、特定の組織で生理状態に依存して発現し、かつ速い分解速度を示すmRNAを環境水から分析する環境RNA分析の進展は、これらの問題を解く手がかりを与えると考えられる。しかし、水生生物の環境RNA分析に関する研究報告例はごく限られている。そこで本研究では、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)を対象とし、飼育水中から環境RNAの検出を試みた。まず、ハウスキーピング遺伝子を含む複数種のmRNAをそれぞれ特異的に増幅するプライマーセットを設計した。そして、これらのプライマーセットを用いて、ゼブラフィッシュの組織試料からRNAの抽出、逆転写、PCR増幅、電気泳動を行った。同様に、ゼブラフィッシュの飼育水から環境RNAの検出を行った。組織試料からハウスキーピング遺伝子複数種(b2m, g6pd, tbp)と黄体形成にかかわる遺伝子(lhb)、ミトコンドリアで発現するシトクロムb遺伝子(mt-cyb)など、全ての対象遺伝子を検出でき、水試料からはb2m、イオンチャネル活性に関わるclcn2c、遅筋収縮に関わるsmyhc2、mt-cybを検出できた。本研究の結果より、魚類の環境RNAを水中から検出できることが示された。また、鰓での発現が豊富であるclcn2cが水試料から検出されたことから、環境DNAや環境RNAの由来の1つが鰓であることが示唆された。今後、生物の状態マーカーとなる遺伝子を対象に環境RNA分析を広げることで、水試料から生物の状態を推定できる可能性があると考えられる。