| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-271 (Poster presentation)
アカサンゴ、モモイロサンゴ、シロサンゴなどの日本産宝石サンゴ類は日本近海の黒潮流域(水深約100~300m)に生息し、沖縄、高知、和歌山、小笠原などで漁獲されている。近年の需要の増加とともに宝石サンゴ類の市場価格は高騰し、取引量が増加している。そのため、現在行われている漁獲制限に加えて、人工増殖等により積極的な資源の保護増殖を図ることが必要であるとの認識が高まっている。宝石サンゴ類の人工増殖については、断片化により無性的に群体を増やし、それを海域で育てる、いわゆる「移植」が有効である。しかし、日本産宝石サンゴ類の移植は1900年代に試験的に行われたが手法の確立には至っておらず、資源保護の目的とした移植が行われた事例もなかった。
そこで本研究では日本産宝石サンゴ類の保護増殖と資源の持続的利用に向け、無性生殖による人工増殖手法の検討と移植放流手法の開発を進めている。これまでに表層海水を使った飼育法、漁獲された天然群体を利用した移植片作製法、小型コンクリート漁礁を放流基質とした移植放流手法の検討などを行ったほか、一連の手法の有効性を検証するための移植放流試験を実施した。
移植放流試験は高知県西部海域の宝石サンゴ禁漁区域(水深100~115m)において、これまでに6回実施している。2016年1月28日から2018年2月20日までにアカサンゴ194群体、モモイロサンゴ10群体を移植放流し、そのうちアカサンゴ移植片60群体を放流後177日から340日までの間に回収して生残および成長状況を観察した。この結果、回収した移植片のすべてが生存しており(生残率100%、n=60)、そのほとんどで何らかの軟体部の成長(共肉の肥厚・拡大、小枝の伸長など)が確認された。これによってアカサンゴにおいては移植放流の約1年後までは生残率が非常に高く、良好な成長を示すことが明らかとなった。今後はさらに長期間(2~5年)の観察を行い、移植放流の効果について検証する予定である。