| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-275 (Poster presentation)
キンランはかつては山や丘陵地の雑木林ではどこにでも見られたが、雑木林の開発や管理放棄、盗掘などによって大きく減少し、絶滅危惧種としてその保全手法の確立が望まれている。キンランは必要な栄養源を自らの光合成と、ブナ科などの樹木と共生関係にある菌根菌から得ている部分的菌従属栄養植物であり、三者共生が生育の必須条件とされているが、生育に必要な環境条件に関する知見はまだ十分ではない。特に近年、湾岸埋立地でキンラン(キンラン属を含む)の生育が報告されており、従来と異なる、新たな自生地として注目されている。そこで今回、保全のための基礎的知見を得ることを目的として、タイプの異なる自生地で生育環境の調査を行った。
調査対象地は、関東の平地二次林、里山公園(丘陵地二次林)、海浜公園(埋立地植栽林)である。調査項目は、キンランの生育状況、共生樹木、開空率、土性、土壌硬度、植被率、管理状況などであり、一部菌根菌の同定を行った。
その結果、キンランは里山的環境(平地二次林、里山公園)ではコナラ、シラカシなど、海浜公園ではマテバシイに近接して生育が見られ、これらが主な共生樹木になっていると考えられた。開空率は0.6~14.4%であり、平均値は平地二次林(2.6~4%)より里山公園、海浜公園(8~9%)で高い傾向が見られた。生育基盤の土性は海浜公園で砂分が60~70%(他は30~50%)と高く、土壌pHはほぼ同等であったが、腐植や窒素分は他より低かった。土壌硬度は海浜公園では表層から5~10cm以深は根系発達に阻害、または根の侵入が困難と判断されたのに対し、他では根系発達に支障のない地盤であった。また海浜公園の生育株からもロウタケ科、イボタケ科の共生菌が検出された。これらの結果から、海浜公園の生育基盤には他と違いが見られるが、共生関係が成立しており、キンランの生育可能な土壌環境条件の広さが示唆された。