| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-283 (Poster presentation)
キンラン属は建設事業における移植需要が高く、多数の移植が実施されているが、活着率が低く、数年後に消失するとされる。確実性の高い移植手法の確立に向けて、モニタリングに基づく手法の検証・改善が重要である。
手法の検証・改善を進めていく上で特に重要なのが移植の成否判断である。通常、移植の成否は、個体出芽の有無で判断される場合が多い。しかし、キンラン属の場合には、地中で休眠する期間があるとされ、毎年、地上部を出芽させるわけではない。移植の成否判断には休眠特性に関する知見の蓄積が不可欠である。既往研究では、自生状態での休眠特性が研究されているが、人為的なストレスを受けた移植後の休眠特性は未解明である。
そこで本稿では、移植後のキンラン属の休眠特性について基礎的知見を得ることを目的に、個体モニタリングにより移植株・自生株の休眠・再出芽の推移を把握した。モニタリングは、2014年以降、キンラン属の自生地・移植地において毎年春季に個体毎に生育状況(出芽・開花数・草丈等)を調査した。分析は、休眠・再出芽が確認された移植株・自生株を特定し、休眠・再出芽率、個体毎の経年的な出芽状況と移植条件(時期・場所・方法)の対応関係を整理した。その結果、1)移植後にも1~2割程度の個体で休眠・再出芽が起きていること、2)移植時期が冬季の場合には明確な傾向が見られないのに対し、夏季の場合には移植初期(1・2年目)に休眠し、その翌年に再出芽する傾向があること、が把握された。夏季移植は、不適期である点、根鉢が簡易的な固定状況で移植された点、個体サイズが相対的に小さい点など、個体へのストレスがより高いと考えられる。移植時のストレスが初期の休眠・再出芽に影響する可能性が示唆された。
なお、これまで出芽していない移植株が、今後再出芽する可能性も残されており、移植後の成否判断には長期モニタリングが不可欠である。