| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-285 (Poster presentation)
近年,野生動物の減少や異常増加が問題となっており,その原因として人間の宅地開発などの活動があげられる.野生動物の保護管理は生息地での保全を基本とし,種の特性や減少要因を踏まえて、対策を取ることが重要とされている.本研究では,玉川大学弟子屈演習林においての野生動物の存在やその生息地について把握し,その保全について検討することを目的とした.
調査区を6つ設定し,その場所の特徴を把握するために植生調査,地形調査を行った.また,野生動物の存在を確認するために調査区内の痕跡調査,センサーカメラを仕掛けた.確認できた野生動物は,エゾシカ,エゾタヌキ,エゾリス,エゾヒグマの4種である.これらの動物は針葉樹林のような,下層被度が低く,歩きやすい見晴らしのいい場所で多く確認できた.また,緩傾斜地でも多く確認でき,急傾斜地ではあまり確認できなかったことから,緩傾斜地は歩きやすいなどの理由でよく利用されているということが考えられた.エゾシカはミヤコザサを主な餌資源としており,それが少ない地域では樹皮を採食していることが分かった.
保全を考える上で野生動物が利用する樹木が多い場所,本研究ではトドマツ林が非常に重要であることが理解された.実際に,多雪地帯では林冠被度が高く積雪しにくい針葉樹林が野生動物にとって重要な生息場所となっているため,針葉樹林を保護,維持することで野生動物の保全につながる.また,緩傾斜地も重要である.しかしながら,今回の研究では利用場所を調査するにあたって痕跡数から検討するにとどまった.今後の調査では,獣道を把握し,カメラトラップを増やすことや,目視での確認も求められる.また,問題となっているエゾシカによる樹皮剥皮は,重要な餌資源であるミヤコザサの生育が少ない場所で多く確認されたことから,樹皮剥皮の被害を防ぐためにはミヤコザサの生育する地域,すなわち落葉広葉樹林の保全も必要である.