| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-286  (Poster presentation)

分断化が進む世界的希少種ミクラミヤマクワガタの御蔵島繁殖集団―世界最大繁殖地における現状―

*岡奈理子(山階鳥類研究所), 荒谷邦雄(九州大学), 小木万布(御蔵島観光協会)

遺存種で環境省RL準絶滅危惧種の飛ばないクワガタで知られるミクラミヤマクワガタの生息地は1960年に新種発見された伊豆諸島の御蔵島と神津島の2島に限られる.
遺存種の生息を担保してきたこれらの2つの海洋島で近年,人為撹乱が加速し,神津島では既に生息状況の悪化が報じられた.残る御蔵島では,これまで生息状況は一度も調査されていない.
そこで本種の生息状況と撹乱要因の把握のため,御蔵島の村民への聞き取りと、ライントランセクトによる生息調査を死亡要因の把握とともに行った.
調査地の御蔵島は都心から南へ約200km,直径5km,面積約20km2,標高851mの山岳島で,周囲は高い海蝕崖に囲まれる.野外調査は本種の地表発生期の2017年4-6月に行った.聞き取りは島の大イベントが本種にどんな変化を及ぼしたかに焦点を絞った.
その結果,ミクラミヤマクワガタは1980年代~1990年代末にかけて桟橋を基点に崖上の集落を抜けた舗装道路が島の両斜面を南にのびる過程で,建設に伴う大撹乱が起こり,とりわけ東の山岳斜面の造成直後に激減したことが分かった.ライントランセクト調査でも総延長15kmの都道一帯では現在も山側が全く回復していない.一方,西側斜面の村道と一部の林道での出現数は比較的多かったものの,舗装道路及びその構造に起因する熱死,側溝落下死,轢死による死亡が多く見られ,出現数の半分近くに及んだ.歩行性昆虫の本種にとって舗装道路が死亡圧になり続け,生息地の大分断を引き起こし,現在も進行中の可能性がある.
ネコによる捕食も聞き取りとネコ糞の本種の遺骸で確認でき,神津島同様,御蔵島でもネコの食害が起こっていた.ミトコンドリアDNAによる遺伝的特徴を予備分析したところ御蔵島と神津島2島の集団間で遺伝的分化がみられ,同一の島集団内でも遺伝的差異が示唆された.生息地が世界で2島に限られる動物種ゆえ人為影響を軽減する早い保全施策が必要と考えられた.


日本生態学会