| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-292  (Poster presentation)

貝類相データをもとにした干潟生態系の健全性評価

*木村妙子, 村山椋, 木村昭一(三重大院・生物資源)

 湿地生態系の健全性を評価するための手法はこれまでに数多く提案されているが,干潟生態系においてはその評価基準が定まっていないため,保全・再生事業の停滞要因となっている。そこで本研究では環境指標として分類学的な研究が進んでおり,広範囲に多くの種が生息する貝類に着目し,簡便に干潟の健全性を評価する手法の確立を目的とした。そのために東海地方の干潟の貝類相と環境を調査し,貝類各種の生物的特徴を用いてレーダーチャートを作成し,その分析から干潟の環境健全性を評価した。
 2015 年から2017年にかけて,東海地方の干潟35地点において調査を行った。各地点の調査は立地や底質,地盤高が異なる1~8か所に5m四方のコドラートを設定し,一定時間内で表在性と埋在性の貝類を採集し,多寡を記録した。環境は地盤高,底質,植生を調査した。確認された103種の貝類について,種別に生物的特性をまとめた指数表を作成した。各特性に該当する全種数に対する各地点に出現した各特性の種数の割合をスコアとして求め,レーダーチャートを作成し,その形状から各地点の環境健全性を評価した。また,レーダーチャートと環境調査結果を比較することで,評価方法の妥当性を検証した。
 本研究の調査から作成されたレーダーチャートは,形状から多角型,T字型,X 型の3タイプに分類された。多角型の干潟は多くの特性のスコアが高く,健全性が高いと判定された。T字型の干潟ではヨシ原や潮間帯上縁部,堆積物食のスコアのみが高かった。これは河口付近の埋め立てや撹乱によって前浜干潟や潮間帯下部の環境が失われたためと考えられた。X型のグループでは砂底,潮間帯下部,肉・腐肉食,懸濁物食のスコアのみが高かった。これは護岸工事によって塩性湿地や潮間帯上部の環境が失われたためと考えられる。環境の調査結果もレーダーチャートのタイプ分けを支持し,貝類相データによる環境健全性評価が有効であることが示された。


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