| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-133 (Poster presentation)
シカによる森林植生への影響を都道府県レベルで捉える手法として、藤木氏らによって落葉広葉樹林を対象とした「下層植生衰退度(SDR)」が開発され、関西地方を中心に調査が進められている。そこで、落葉広葉樹林が比較的多く、シカの生息地でもある栃木県においても、全県的なSDR調査を行い、シカによる森林植生の影響を県域スケールで把握することを試みた。調査に際して、ササ型の林床に適した手法の開発を課題とし、ササ丈の変化を取り入れた評価手法の検討を行った。
調査は、県の鳥獣保護区等位置図の5kmメッシュに従い、シカの生息の可能性がある地域で各メッシュに1点、合計174地点で実施した。各地点において、SDRの調査項目を基に作成した独自の調査シートを用い、下層植生の被度ならびにシカによる樹皮剥ぎや枝葉の食害を記録してSDRを決定した。各地点のSDRを基に、GISを用いた空間補間処理によって県内のシカ生息域におけるSDR分布図を作成した。
栃木県全体でシカによる下層植生の衰退が顕著であったのは、これまでもシカ生息密度が高いことが確認されてきた日光市の南西部および北東部だった。地形的条件としては、標高500m以上の場所で、かつ斜面傾斜が10°以上の場所でランクが高かった。SDRは目撃効率と正の相関があることが報告されているが、今回の調査でも、目撃効率が0.5以下の地域で有意にSDRが低下した。一方、日光連山付近では、目撃効率が高いにもかかわらずSDRが小さく、アクセス困難地や落葉広葉樹林の少ない場所での調査方法は今後の課題といえた。ササ丈の変化を取り入れたSDRでは、主にシカ密度の大きな地域でSDRランクが増加し、密度指標との相関性がやや増加した。