| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-137 (Poster presentation)
花の色は訪花者が花を選ぶ際に用いる重要なシグナルである。しかし、訪花者の色の好みに関する研究の多くは、限られた分類群(膜翅目、鱗翅目、鳥類)の訪花者を対象に行われてきた。このため、その他の分類群の訪花者に、色の好みがどの程度存在しているのか、その知見は少ない。
知見が少ない訪花者分類群の中で、双翅目は膜翅目に次いで重要度の高い送粉者だと言われている。特に、高山や極地ツンドラなどの寒冷な気候帯では、膜翅目以上に双翅目が優占する傾向が知られている。そこで本研究では、双翅目訪花者に、色の好みがどの程度存在しているのかを明らかにするため、色の異なる補虫トラップを用いて野外実験を行った。
実験は中部山岳国立公園立山の高山帯(標高2400-2800m)で、2015年7月22日~8月25日に行った。ここに、黄、淡黄、紫、白、緑のトラップ(界面活性剤を入れたシャーレ)を設置し、捕獲した昆虫を外部形態に基づいて分類した。トラップは5色で1セットとし、計33セット設置した。また、周囲の開花状況の影響を考慮するために、トラップを設置した場所を中心に半径10m内に開花している花の種類と花数も記録した。
その結果、訪花性の双翅目は、淡黄や黄のトラップに多く補虫された。明度が高い白よりも淡黄や黄で多く捕虫されたことから、彼らが明度ではなく色情報に基づいて黄色系の色を好んでいたことがうかがえた。また、双翅目の中にも、黄をより好む種類から、淡黄と黄を同程度に好む種類まで、色の好みが異なるものが含まれていた。種類ごとの色の好みは日付を超えて維持される傾向があり、周囲に開花している花の種類にもほとんど依存していなかった。このため、彼らの色に対する好みは、種類ごとに特異的な性質であると思われた。
以上の結果から、双翅目訪花者にも色の好みが存在し、それが種類ごとに異なることがわかった。