| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-138  (Poster presentation)

ハクサンカメバヒキオコシの葉の切れ込みはオトシブミへの産卵防衛として機能しているか?

*樋口裕美子, 川北篤(京大・生態研)

植物の葉は様々な「かたち」を示す。葉は植物の生存に欠かせない光合成器官であり、植物は自身の生育環境に応じて様々な葉形質を進化させてきた。そのため、多様な葉の形もまた、植物の生存戦略を反映していると考えられる。限られた既存研究では、受光効率や風の受け流しなど非生物的環境要因と葉形の関連が注目されてきたが、植物は植食者による食害からも大きな影響を受ける。しかし、トリコームや化学物質などの防衛形質に比べ、葉の形による被食防衛はほとんど知られていない。
本研究では、シソ科ヤマハッカ属の草本ハクサンカメバヒキオコシの葉にみられる特異な切れ込みが、ヤマハッカ属を広く利用するムツモンオトシブミの産卵に対する防衛として機能しているか調べた。オトシブミ類は産卵時に葉を巻き上げ、幼虫のための揺籃を作る。揺籃は決まった順序に沿って作られるため、通常の寄主植物にはない激しい切れ込みがあると揺籃形成が阻害される可能性がある。
野外調査において、ハクサンカメバヒキオコシは同所的に生育する切れ込みのないクロバナヒキオコシに比べ、揺籃形成頻度が顕著に低かった。そこで、クロバナヒキオコシに人為的に切れ込みを入れたところ、ムツモンオトシブミは切れ込み処理をした葉を避ける傾向がみられた。一方、幼虫はハクサンカメバヒキオコシで巻きなおした揺籃でもクロバナヒキオコシと同等かそれ以上の成長量を示したことから、葉の質としてはハクサンカメバヒキオコシを十分利用できることもわかった。これらの結果は、切れ込みがメスの揺籃形成行動を阻害することで防衛として機能していることを示唆する。そこで、切れ込みの影響を特定するため、メスの揺籃形成過程を撮影したところ、測量と巻き上げの2つの段階で、切れ込みが防衛として機能している可能性が示されてきた。本研究から、葉の形による植食性昆虫への新たな防衛メカニズムが明らかになってきた。


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