| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-139  (Poster presentation)

遺伝子発現解析から見える多年生草本植物におけるウイルスー宿主相互作用の季節動態

本庄三恵(京都大学・生態研), 永野惇(京都大学・生態研, 龍谷大学・農学部), 川越哲博(京都大学・生態研), 杉阪次郎(京都大学・生態研), 栄村奈緒子(京都大学・生態研), 神谷麻梨(京都大学・生態研, 龍谷大学・農学部), *工藤洋(京都大学・生態研)

ウイルスの感染は、植物病の1つとしてしばしば農作地において植物の大量枯死や収穫量の減少などを引き起こす。一方、自然生態系においては顕著な病徴を示さずウイルスが広く感染していることが報告されつつあるが、ウイルスが宿主内でどれくらいの期間保持され、宿主との相互作用が長期的にどのように変化するかはよくわかっていない。
本研究では、自然生態系でのウイルスー宿主の相互作用の季節変化を明らかにするため、多年生の草本植物ハクサンハタザオの自然集団を対象に、カブモザイクウイルスの宿主内動態と宿主遺伝子発現を調べた。カブモザイクウイルスに感染した2個体から3年間週1回採取した葉を用いて、RNA-SeqとRT-qPCRを行ったところ、配列の相同性から同一のウイルスが3年間感染し続けていること、一方で組織内のウイルス量は最大100万倍も季節変化することが明らかになった。葉位とウイルス量の関係を調べたところ、冬には上位葉(新規展開葉)でウイルス量が少なく、低温下でウイルスの増殖が抑えられるという室内実験の結果と一致した。次に、ウイルス感染と宿主遺伝子発現の関係が季節的にどのように変化するのかを明らかにするため、野外の感染・非感染個体について遺伝子発現量をRNA-Seqにより網羅的に比較した。その結果、春には感染個体で病害応答関連の遺伝子が発現上昇し、秋には光合成関連の遺伝子群が有意に発現低下していた。一方、冬には感染の有無で有意に発現変動している遺伝子は検出されなかった。これは、室内のウイルス接種実験において低温下(15℃/10℃)でウイルスの増殖が遅い一方、高温下(25℃/20℃)では光合成関連遺伝子を含む1,049の遺伝子で発現量に違いが検出されるという結果と一致した。カブモザイクウイルスは野外の植物に長期に感染し、特定の季節にのみ増加し光合成低下を引き起こすという季節性があることが示唆された。


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