| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-144  (Poster presentation)

節足動物における植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン)内生量の比較および植食性の進化との関連

*徳田誠(佐賀大・農), 鈴木義人(茨城大・農), 安達修平(鹿児島大院・連合農学), 藤田将平(佐賀大・農)

近年の研究から、ゴール形成性ハバチなど、一部の昆虫類は体内で植物ホルモンの一種であるオーキシンを合成する能力を有することが明らかになってきており、昆虫における植物ホルモン合成能と、ゴール形成性や植食性との関連について注目が高まっている。本研究では、昆虫における植物ホルモン合成能の進化的起源を探る目的で、クモ綱(クモ目)や昆虫綱の様々な目における植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンの内生量を調査した。その結果、オーキシンはクモ目、トンボ目、カゲロウ目、バッタ目、ナナフシ目、シロアリ目、カメムシ目、コウチュウ目、トビケラ目、チョウ目など、分析したすべての分類群で確認された。一方、植物体内で活性を持つ2種類のサイトカイニンiP(前駆物質iPR)、tZ(前駆物質tZR)のうち、iPあるいはiPRは多くの昆虫類で確認されたが、tZあるいはtZRは植食性の目であるバッタ目やナナフシ目を含む多新翅類ではほぼ認められず、カメムシ目の一部の分類群や、完全変態昆虫でのみ、ある程度の内生量が検出された。興味深いことに、植食性の目の中でも、ゴール形成性が進化している分類群では、tZあるいはtZRを一定量体内に保持している傾向が認められた。一連の結果から、節足動物は進化のかなり早い段階でオーキシン合成能を獲得していた可能性があること、一部の植食性昆虫は、オーキシン合成能を増強して摂食の際に利用している可能性があること、及び、tZR/tZ合成能は、昆虫の中の一部の分類群でのみ獲得されている可能性が高いことなどが判明した。iPとtZは植物体内での移動方向が異なっていることが知られている。tZ/tZR合成能の獲得が、ゴール形成性の進化に前適応的な機能を果たしたのか否かに関して、今後詳細に研究を進める必要がある。


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