| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-145 (Poster presentation)
大台ヶ原では、1990年代以降シカの採食等による影響が顕著となっており、下層植生が衰退するなど森林生態系の衰退が進んでいる。そこで、環境省は2005年に大台ヶ原自然再生推進計画を策定し、その取組としてシカの個体数管理や森林生態系の回復と保全を目指した防鹿柵の設置等を進めている。防鹿柵外の植生回復はシカの個体数密度が5頭/k㎡以上といまだ高いため進んでいないが、防鹿柵内ではシカによる摂食や踏みつけなどの影響がなくなり、植物の種数や開花が増加するなど、下層植生の回復が進んでおり、動物相も含めた生物多様性の回復が期待されることから、設置後10年が経過した防鹿柵内外およびドライブウェイにおいて開花植物と訪花昆虫の相互関係に着目した調査を2016年5~9月にかけて実施した。
防鹿柵外はシカの影響により下層植生が衰退しているため、季節を通して開花植物が少なく6月下旬~8月上旬に不嗜好性植物であるバイケイソウの開花が見られる程度であった。一方、防鹿柵内は5月下旬~8月上旬まで回復したオククルマムグラ等の草本が多く開花していた。ドライブウェイは5月下旬〜8月上旬にかけてシカの影響を受けない木本が多数開花し、秋以降はシカの不嗜好性植物であるニセツクシアザミ等の草本が多数の花をつけていた。大台ヶ原の訪花昆虫相は冷温帯の他地域に比べ、ハチ目の割合が少なかった。これは草本植物を好むハナバチ類が減少しており、シカの影響をあまり受けない木本植物に訪花するコウチュウ類がそれほど減少していないためと考えられた。ハナバチ類は林内の防鹿柵外では訪花がみられず、ドライブウェイと防鹿柵内では訪花が見られた。このことから、シカの影響により減少した林内での開花の代替として、ハナバチ類は採餌場所としてドライブウェイを利用していること、防鹿柵内では下層植生回復に伴う餌資源の回復によりハナバチ類の訪花が回復していることが明らかになった。