| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-148 (Poster presentation)
植物の種内変異が、生態系機能や地下部の生物群集組成に与える影響を検証することは、生態学のトピックの一つである。しかし、実験系を組むのが非常に困難であることから、林冠木種を対象とした研究はほぼ皆無であるのが現状である。本研究で我々は、北海道大学和歌山研究林にあるスギのコモンガーデンを用いて、スギの地理変異が土壌生態系に与える影響について検証した。本コモンガーデンには、原産地の異なる4変異種(ヨシノスギ、ヤナセスギ、イトシロスギ、ヤクスギ)が植林されているプロットが存在する。本4プロットにおいて、土壌、スギの生葉、根、リター、さらには根から浸出してきた有機酸を採集し、化学分析を行った。さらには、土壌動物を採集および同定を行い、各土壌パラメーターを用いて群集解析を行った。
その結果、根系の活性の指標であるスギの細根の窒素濃度や根からの有機酸の放出速度は変異種間で有意に異なり、特にヨスノスギで有意に高い傾向を示した。さらに、土壌、落葉リターおよび生葉中の栄養塩濃度(カルシウムおよびリン)がヨシノスギプロットで有意に高い傾向を示した。そして、同時に分析した生葉中のストロンチウム同位体比の結果から、ヨシノスギは、母岩より多くのカルシウムを得ていることが分かった。そして、群集解析の結果から、本コモンガーデンの土壌動物の群集組成は、主に土壌中のカルシウムやリンに影響されて変化していることが示唆された。
我々の研究データから、スギの地理変異が、土壌中の栄養塩濃度変化を介して、地下部の生物群集にまで影響を与えていることが示唆された。本研究は、林冠木の種内変異が土壌形質の変化を介して土壌生態系に与える影響を実証した初めての研究である。