| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-169 (Poster presentation)
トドマツは北海道に自生する亜寒帯から冷温帯上部の代表的な針葉樹である。その天然分布は道内全域にわたり,地域によってさまざまな気候環境に適応していると考えられる。トドマツ天然林の地域による遺伝的分化を明らかにするために,道内に分布するトドマツ天然林25集団を対象に調査を行なった。各集団から成熟木48個体を選び,DNA分析用サンプルとして針葉を採取し,ヨーロッパモミで開発されたEST-SSR遺伝子11座を解析した。遺伝的多様性パラメータとして平均ヘテロ接合体率を計算した結果,集団全体ではHe=0.359であった。地域別にみると,道東および道北の集団では遺伝的多様性が高く,道央から道南にかけて遺伝的多様性が減少する傾向がみられた。とくに,渡島半島から松前半島に天然分布するトドマツ集団の遺伝的多様性はもっとも低くなる傾向がみられた。松前半島はトドマツの地理的分布南限にあたり,分布の辺縁集団で多様度が低下している可能性が示唆された。遺伝的多様性が分布限界に近づくにつれて低下する現象は他の植物でも観察されている。また,積丹半島に分布するトドマツではGisが負の値をとった。これは集団が隔離あるいは小集団化によって遺伝的浮動の影響が現れている可能性が高いと考えられる。さらに,主座標分析の結果から,南限に位置する松前半島の2集団と積丹半島の集団が他の集団と異なることが示された。STRUCTURE解析では4つのクラスター(K=4)が支持された。各クラスターの保有割合は地域によって異なり,(1)根釧と東部,(2)中部と西部,および(3)南部の集団に共通性が見られた。これら3つの地域では積雪深に代表される気候環境が大きく異なることから,トドマツはそれぞれの地域環境に適応して遺伝的分化が起きていることが示唆される。