| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-173 (Poster presentation)
リンは生物に利用可能な形態での自然存在量が希少であるため、流域生態系の物質循環を支配する律速因子とみなされる。この生化学特性のため、人間活動に伴って流域に負荷されるリンは、富栄養化や生物多様性低下など深刻な環境問題をしばしば引き起こす。にもかかわらず、天然トレーサーの存在しないリンの由来や循環プロセスには未解明な点が多く、その生態学的理解は進んでいない。生態系管理の観点から、流域のリン動態を解明する技術を確立することは積年の課題となっている。本研究は、栄養螺旋モデルと安定同位体モデルという2つの先端手法を駆使しして、流域スケールおよびオンサイトでそれぞれ河川生態系のリン負荷源の特定およびリン循環機能の評価を試み、両手法の妥当性を検証することを目的とする。さらに、河床微生物の多様性とリン循環機能の関係を評価することによって、流域の健全性を向上する生態系管理に資する科学的知見を提供することを目指す。
調査は、琵琶湖の最大流入河川である野洲川流域を対象として、2016年の灌漑期に実施した。河川水のリン酸-酸素同位体比は流域内で顕著な地理的変異を示し、堆積岩もしくは水田に由来する外部負荷源の同位体情報が刻印されていた。栄養螺旋モデルによって推定されるリン取込み速度が高い河川ほど、生物によるリンの代謝回転によって実現される同位体交換平衡値に収束する傾向がみられ、生態系のリン循環機能を評価する指標として両モデルの有効性が相互に検証された。リンの取込み速度は、河床礫付着緑藻類のバイオマスや多様性が高い河川で増加する有意な傾向が認められ、河川生態系の生物多様性とリン循環機能の関係がin situで実証された。本研究により、生態系機能の向上を目的とした生態系管理において、生物多様性を保全することの科学的的根拠が示された。