| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-178  (Poster presentation)

哺乳類4種の糞によるベイトトラップに誘引された糞虫相の比較

*小林尚暉(帝京科学大学), 高槻成紀(麻布大学), 下岡ゆき子(帝京科学大学)

 哺乳類の糞は主に食糞性コガネムシ(糞虫)によって分解される。糞虫に関する研究は、放牧草地の家畜の糞における群集に関するものが多く、エンマコガネ類・マグソコガネ類が多い、比較的単純な組成であるとされる。しかし森林での野生動物の糞に集まる糞虫相に関する研究例は少ないので、山梨県大月市の広葉樹林と針葉樹林において、糞虫採集用のベイトトラップを設置し、野生のシカとタヌキの糞を用いて、2017年に糞虫を採集した。比較のために2015年にウマとイヌの糞でも試みた。
 糞虫組成を群落間で比較すると、4つの糞トラップすべてにおいて、合計個体数は広葉樹林のほうが針葉樹林よりも多かったが、種構成は類似していた。これは広葉樹林のほうが哺乳類の糞の供給が多様で、量も多いためと考えた。採集された糞虫は草食獣(シカとウマ)と食肉目(タヌキとイヌ)の糞虫の種構成に大きな違いが見られ、前者のほうが多様性が高かった。草食獣にはゴホンダイコクコガネ、マエカドコエンマコガネ、オオセンチコガネが多く、食肉目にはセンチコガネ、コブマルエンマコガネが多く集まった。採集された糞虫の個体数は、草食獣の糞よりも食肉目の糞のほうが多かった。
 放牧草地の糞虫群集ではエンマコガネ類やマグソコガネ類が豊富であるとされるが、本調査の結果は違いがあった。すなわち、森林ではセンチコガネ類やエンマコガネ類、ゴホンダイコクコガネが多かった。草食獣(シカとウマ)ではマグソコガネ類が多く採集された季節もあったが、全体的には少なく、食肉目においてはほとんど採集されなかった。そして、種多様度(H’)は放牧草地よりも高かった。これまで、放牧草地でウシ糞の糞虫相が調べられてきたが、森林におけるものよりもマグソコガネ類に偏った単純なものであることがわかった。これにはウシの糞が多いことや直射日光による糞の早い乾燥などの要因が考えられる。


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