| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-191  (Poster presentation)

本州中部山岳における高山植物種多様性の地理的分布パターン

*尾関雅章, 石田祐子(長野県環境保全研)

 本州中部山岳の高山帯は、周北極性生物の世界的な分布南端域にあたり、気候変動に対して脆弱な生態系の一つとされる。この本州中部山岳高山帯に生育する高山植物についての地域的な気候変動適応策検討に向けて、その種多様性の地理的分布パターンについて検討した。
 対象地域は、本州中部山岳のうち長野県域とした。高山植物の区分は、清水(1982・1983)に準拠した。高山植物の分布情報として、高山帯で実施した植生調査資料に、「長野県植物誌」データベースに収録された標本及び文献・視認記録、長野県環境保全研究所の標本記録、環境省による植生調査資料を加えた計44,014件を、5倍地域メッシュ(一辺約5km)に集約して用いた。種多様性の指標には、各メッシュの出現種数、出現種の出現メッシュ数の逆数の和である希少性指数を用い、種多様性の分布パターンとして、局所的な空間自己相関をLocal Moran’s Iにより検討した。
 対象地域614メッシュでは、379分類群の高山植物が確認された。山岳単位の出現種数では北アルプス白馬岳周辺が最も多かったが、山域単位の出現種数の中央値では八ヶ岳が最も高く、南アルプス、北アルプスと次いだ。出現種数の局所的な空間自己相関では、白馬連山、八ヶ岳横岳、南アルプス荒川岳、塩見岳が特に出現種数が多く、高い空間自己相関を示す山域として抽出された。また、希少性指標と出現種数には有意な強い正の相関が認められ、本州中部山岳の高山植物種多様性ホットスポットは、希少種(低頻度出現種:山域固有種・隔離分布等を示す種)の集中的な分布により形成されていることが示唆された。本州中部山岳で間氷期に高山植物が遺存した逃避地が、現在の希少種の集中分布域になっている可能性も考えられ、こうした高山植物種多様性の形成要因・過程を考慮した適応策検討が求められる。


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