| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-192  (Poster presentation)

保管温度による標本中のDNAの急速な分解

*長太伸章(国立科学博物館)

DNA解析は遺伝学や進化学だけではなく今や分類学や生態学でも欠かすことのできないツールの1つである。DNA解析においては扱う標本のDNAの分解を防ぐ事が必要であるが、昆虫などの小型動物を対象にした研究の場合、DNA解析を行う研究ではDNAの保存性の高いエタノールやアセトンを用いた液浸乾燥で保管されることが多い。しかし、DNA解析を行う前提ではない研究では、一般的に乾燥標本として保管されることがほとんどである。乾燥標本では多少なりともDNAの分解が進むことが知られており、数十年前の博物館収蔵標本では一般的にDNA解析は難しい。さらに状況によっては採集から時間の経っていない標本でもDNAバーコーディングなどのDNA解析が不可能であることもある。
これまでもDNAの分解は多くの研究で関心を持たれてきたが、その評価はPCRの成功率で評価されることが多かった。しかし、ハイスループットDNAシーケシング等を利用した塩基配列の解読やゲノム解析では高分子のDNAを必要とする解析も多く、これまでのPCRベースでのDNAの分解の評価では特に高分子のDNAの分解については不十分である。
そこで本研究ではアズキゾウムシを使って乾燥標本のDNAが温度と暴露時間でどのように分解するのかを断片サイズに着目して評価した。その結果、低温以外では高分子のDNAの分解は比較的早く進むことが明らかになった。特に55℃では1時間程度でも高分子のDNAが分解していた。この温度は特に夏場の自動車内においては容易に達する温度であり、DNA解析での使用可能性のある乾燥標本については、保管時だけはなく採集時にも保管温度に十分な配慮をするべきであると考えられる。


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