| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-193  (Poster presentation)

亜熱帯照葉樹林における流水性トンボを用いた河畔林―河川エコトーンの生物多様性ホットスポットの評価

*境優(中大・理工), 須田真一(中大・研), 桶田太一(中大・研), 野村諒輔(中大・理工), 鷲谷いづみ(中大・理工)

 南西諸島を含む東アジアの湿潤亜熱帯には熱帯雨林と並んで生物多様性ホットスポットと認識される照葉樹林が存在する。河畔林―河川エコトーンは、陸域・水域の両方を生息地とする動物類をはじめ様々な生物に生息地を提供して森林域の生物多様性に貢献することが熱帯・温帯地域から知られている。一方、世界的に分布域が限られる亜熱帯照葉樹林では、河畔林―河川エコトーンの生物多様性保全上の重要性について知見が乏しい。本研究では、生活史を通して陸域・水域のつながりを必要とする流水性トンボを用いて奄美大島の亜熱帯照葉樹林を対象に河畔域・河川の生息地環境と種数の関係性を調査した。
 奄美大島の9つの河川から30地点の調査区間(長さ200m)を設け、流水性トンボのラインセンサスと環境調査(水温、水深、川幅、流速、開空度、半径500m以内の森林被度)を行った。生息する可能性のある種を網羅するためにラインセンサスは2016年5、6、9月に実施し、各調査区間の流水性トンボの在・不在データを作成した。既存の文献から奄美大島に生息する流水性トンボは10種と考えられ、うち7種は南西諸島または奄美群島の固有種または固有亜種であり、高い固有性を有している。
 調査の結果、10種すべてを確認することができた。これらのトンボの多くは陰湿な環境を好むことが知られ、開空度の小さい暗い調査区間ほどトンボ種数が多くなった。河畔林の枝葉は流水性トンボの夜間や成熟期の退避地を提供し、河畔植生の根際や河床堆積リターは幼虫期の生息地を提供している。すなわち、亜熱帯照葉樹林に成立する密な河畔林は薄暗く構造的に複雑な生息地空間を陸域・水域の両方に生み出すことで、それらを利用する流水性トンボの種多様性をもたらしていると考えられる。したがって、亜熱帯照葉樹林の河畔域に発達する森林は陸域・水域の生息地構造を健全に維持するために重視すべき環境であると推察された。


日本生態学会