| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-195 (Poster presentation)
近年、半自然生態系において、伝統的な土地利用が集約的な利用へ変更されたり、放棄されてしまうことでその生物多様性が急激に減少している。特に、火入れ、草刈り、放牧などの管理が粗放的に行われてきた半自然草原生態系では、この集約的土地利用や放棄による生物多様性への負の影響が顕著であると言われている。
スキーリゾート開発は近代的な土地利用にも関わらず広大な半自然草原を維持している特異な例である。一般的に、スキー場建設の際には森林伐採、重機導入による掘削や人工降雪および土壌侵食を防ぐための外来種の播種によって植生を大きく変化させると考えられている。一方で、森林限界下におけるスキー場開発では、建設・管理方法によっては在来の草原生生物種へ代替的な生育・生息地を提供しうるという研究報告もある。本研究では、山地帯に維持されてきた伝統的な牧草地をそのまま利用したスキー場と、放牧地が一度放棄され森林化した後に森林伐採によって建設されたスキー場の植生を比較した。その結果から、土地利用履歴の違いおよびスキー場建設時の土壌掘削が草原生植物の多様性へ与える影響を検討した。その上で、個々の優占草原生植物種の分布が、森林化または土壌掘削の影響を受けるのかを検討した。土壌掘削の程度を直接測定することは困難なため、本研究では半自然草原に特徴的な黒ボク土の形成に着目し、A型腐食酸の量で表層土壌における黒ボク土の残量を推定し、掘削の程度の指標とした。
本研究では、対象とする草原生種の分布を決定する主要因を明らかにし、希少な草原生種の減少のメカニズムの一部を検討するとともに、草原生植物の生育地の代替地としてのスキー場の可能性について議論する。