| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-196  (Poster presentation)

様々な空間スケールでの樹木群集の系統的多様性分布

*伊東明(大阪市大・院理), 殷亭亭(大阪市大・院理), 奥野聖也(大阪市大・院理), 名波哲(大阪市大・院理), 松山周平(酪農学園大・農食環境), Sylvester Tan(CTFS), Stuart Davies(CTFS), Mohizah B. Mohizah(サラワク森林局)

近年、生物多様性の評価指標に系統的多様性(phylogenetic diversity)が使われるようになってきた。しかし、森林の系統多様性の分布状況とそれに関わる要因は十分に検証されていない。そこで、様々な空間スケールでの樹木群集の系統多様性の分布を調べるために、1)ヨーロッパの森林(Mauri et al. 2017:単位面積=100 km2)、2)アメリカの森林(Wilson et al. 2013:100 km2)3)日本の森林(モニタリング1000森林調査区:1 ha)、4)世界の熱帯林(CTFS-ForestGEO大面積調査区:2~52 ha)、5)ボルネオ島の低地熱帯雨林(ランビル国立公園大面積調査区:400 m2)の出現樹種データを用いて系統多様性(FaithのPD指数)を計算した。なお、1~4の系統樹はphylocomで、5の系統樹は葉緑体DNA(rbcL、matK、trnH~psbA)の塩基配列を使って推定した。どの空間スケールでも系統多様性と種数には正の相関があり、種数が多い森林ほど系統多様性が高かった。そこで、種数から期待されるPDの値からの偏差(基準化PD)を計算し、種数の違いを考慮して系統多様性を比較した。その結果、温帯林では、系統的に古い針葉樹と新しい広葉樹が共存する地域で基準化PDの値が大きく、針広混交林の系統多様性が高いことが示された。熱帯林では、種数と基準化PDの間に負の相関があり、種数が多いアマゾンやボルネオの低地熱帯雨林では、種数から期待されるほどには系統多様性が高くないことが示された。これは、森林を構成する目や科の数は種数の異なる熱帯林の間でもあまり違わないのに対し、同属樹種の共存種数は種数の多い熱帯林で格段に多くなるためと考えられる。ランビル熱帯雨林では、立地条件と系統多様性に関係が見られ、土壌養分が少なく乾燥する尾根より、肥沃で湿潤な谷部の方が系統多様性が高い傾向があった。これは、養分・水分ストレスが強い尾根では環境への耐性が、ストレスの弱い谷では個体間の競争がより重要であるため、谷では近縁種が共存しにくいからかもしれない。


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