| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-202 (Poster presentation)
神奈川県では、人工林の間伐が生物多様性と生態的機能に及ぼす効果を把握する為にモニタリングを行っている。間伐は、林床植生や林分構造を変化させることで、様々な生物の多様性や生態的機能に影響を及ぼす。一方で、人工林生態系は、その周辺に残存する広葉樹林からの影響も重要であることが分かってきている。しかし、これら一連の影響を総合的に検証した例はまだ少ない。本研究では、神奈川県北西部のスギ・ヒノキ林18林分において、①昆虫と土壌動物の種多様性の評価(昆虫、ササラダニ、ミミズ)、②林床植物の種多様性の評価と林分構造調査、③土壌分解機能の評価(初期分解速度(k)、炭素貯留能力(S); Keuskamp et al. 2013)、④GISを用いた隣接する広葉樹林からの距離計測、⑤林床への広葉樹リター供給量の測定をそれぞれ行った。これらより各分類群の種多様性と分解機能に及ぼす効果についてパス解析を行った。その結果、広葉樹林からの距離が近く、林内の広葉樹BAが高いほど、広葉樹リター供給量が多く、それはササラダニと地表を徘徊する昆虫類の種多様性に正の効果を及ぼした。林床植物の種多様性は、林床を生息地とする昆虫の種多様性に正の効果を及ぼした。土壌における初期分解速度は、広葉樹林からの距離が近いほど高かった。また、広葉樹林からの距離の近さと林内の広葉樹BAは、広葉樹リター供給量とササラダニの種多様性を介して、初期分解速度に間接的な正の効果を及ぼした。ミミズの種多様性と広葉樹林からの距離は、炭素貯留能力に正の効果を及ぼした。以上より、人工林の生物多様性や分解機能には、林内の植生環境や林分構造だけではなく、周辺広葉樹林からのリター供給などの周辺効果も密接に関係していることを確認した。したがって、人工林生態系の健全化には、間伐とともに周辺に残存する広葉樹林の保全を含めた森林管理が重要である。