| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-209  (Poster presentation)

宿主の自然史標本から寄生関係を明らかにする:ウオノエ科等脚類での試み

*川西亮太(北大・院・地球環境)

寄生虫(寄生性の生活様式を持つ生物)は、地球上に生息する生物種の少なくとも半数以上を占めると考えられている。しかし、実際の種多様性や生態等の解明は自由生活性の生物種に比べて大きく遅れており、生物多様性保全における課題の一つとなっている。寄生関係を解明するためには、野外での潜在的な宿主の収集・調査という膨大な時間と労力を要するプロセスが必要であり、大きな障壁となってきた。本研究では、効率的かつ網羅的な代替・補完手法として、博物館に収蔵されている潜在的宿主の既存自然史標本に着目し、これら標本から寄生虫が見つかるかどうか、そしてその有無から宿主特異性などの寄生関係を推察できるかどうかを検証した。今回は魚類に寄生するウオノエ科等脚類をモデルとし、琵琶湖周辺のタナゴ亜科魚類標本への寄生を調査した。タナゴ亜科6種800個体以上の標本を調査した結果、ウオノエ科等脚類が寄生した状態の標本が複数発見された。また、宿主として利用される魚種には著しい偏りが見られ、イチモンジタナゴやシロヒレタビラで主に寄生が確認された。本研究の結果は、寄生虫の多様性や生態解明における宿主の自然史標本の有用性を示唆するものであり、また同時に、自然史標本が単にその種の標本としてだけではなく、寄生虫という生物多様性情報を内包するものとしての潜在的価値を持つことを示すものである。


日本生態学会