| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-219 (Poster presentation)
漁業は複雑に変動する海洋環境下での、収獲追求にむけた漁獲努力量(effort;エフォート)の決定、いわゆる不確実性下の意思決定問題にあたる。これに対して水産資源管理は、乱獲回避を目的とする、エフォート(漁獲圧)適正化のための総合的なプログラムである。入口管理(input control)とよばれるエフォートの規制は、漁船規模や漁具の使用許可数等、操業のための物理的コストの工学的側面を抑制するものである。一方で漁業の現場では、魚群探索の技や経験、利得の主観的な評価や選択に対するこだわりや感情など、エフォートを支配しうる非工学的要素、ヒト由来の潜在因子が経験的に知られている。我が国の水産資源管理では、行政主導のエフォート管理; top-down方式が主流を占める。実践的な管理ルールの制度化は、画一的な合理性を前提とする設計原理に基づいて進められる。漁業者の気質・情動といった特性について、存在は認められつつもtop-down管理方式では積極的に考慮されていないのが実情である。
合理的選択は人間行動の特殊なケースととらえ、あえて合理性からのアノマリ(乖離)や非合理性に着目する試みが、一方で注目を集めている。この動向はプロスペクト理論(Kahneman and Tversky; 1979)に代表される行動経済学として発展しつつある。本理論では利得と確率に起こりうる合理性からのアノマリを扱うことができる。ヒトのこころや感情が経済活動としての漁撈に影響するのであれば、資源管理すなわちエフォートのコントロールの枠組みも再構築する必要がある。プロスペクト理論は、既往の水産資源動態モデルと、数理的扱い上、相性の良いものである。本理論の導入を端緒として、現実的な資源管理制度のありかたを探る。水産資源研究への応用に加え、広く生態系管理におけるヒトの意思決定についても議論を期待する。