| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-228  (Poster presentation)

目撃情報を用いたニホンジカ管理手法の検討

*立脇隆文(人間環境大学), 中西敬宏((株)マップクエスト), 江口則和(愛知県新城設楽農林, 愛知県森林セ, 北大院農), 栗田悟(愛知県森林セ), 釜田淳志(愛知県森林セ), 石田朗(愛知県森林セ)

ニホンジカによる自然生態系・農林業・生活環境への被害の深刻化を受けて環境省が発表した2014年時点のニホンジカの分布図(約5km×5kmメッシュ:以下、分布図)は、捕獲報告だけでは分布前線を把握できないことを示唆している。分布前線の把握の遅れは被害対策の遅れにつながる恐れがあるため、変わりゆく分布前線をリアルタイムに把握する新たな仕組みが必要である。本研究は、ニホンジカ管理のうち分布前線の把握における目撃情報の利用可能性を検討するために、ニホンジカの分布縁を含む愛知県の6市町村で2015年1月1日から2016年12月31日の間に林務・鳥獣関係の行政職員および森林組合職員によって目撃されweb上(「シカ情報マップ」の試行版)に登録されたニホンジカの目撃情報441件を用い、1)得られた目撃情報と分布図の一致率および、2)分布図の在メッシュにおける目撃情報の空間的偏り(道路の周辺に多いか)ついて解析した。目撃情報があるメッシュを「在」、目撃情報がないメッシュを「不在」とし、分布図の在不在との混同行列を作成したところ、一致率は56/87(64.4%)であった。不一致は主に分布図の在メッシュに目撃情報がないためであった(分布図の在メッシュ85のうち、31で目撃情報なし)。一方、目撃地点から道路縁までの最近接距離は中央値で8.8mであり、背景点(分布図在メッシュ内に格子状に配置した地点)から道路縁までの最近接距離(中央値で75.8m)よりも有意に短かった。これらの結果は、ニホンジカの分布縁で目撃情報から分布を把握するためにはより多くの情報収集努力が必要であることや、道路から離れた地域の目撃情報を得る仕組みが必要であることを示唆している。今後、一般市民や登山者などの協力を仰ぐなどしてこれらの課題が解決されれば、分布前線のリアルタイムな把握に基づく予防的な対策が可能になるだろう。


日本生態学会