| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-236 (Poster presentation)
河川における総合土砂管理が本格化する中で、人為的な土砂供給による水生生物への影響についても評価・予測手法が求められる。アユを例にすると、土砂供給は石礫の付着藻類の剥離・更新を促進することで餌の質を向上させるという報告がある一方で、供給量が多くなった場合に生じうる、石礫の埋没を通じたアユの摂食環境の変化に関する知見は少ない。これまでの調査で、石礫の露出高(砂面から石礫天頂までの高さとして定義)とアユの摂食痕(食み跡)の関連を複数地点で解析し、採餌場利用のために必要な石礫の露出高を10 mm程度と推定した。ただし、この値は、群れアユや小サイズのアユによる採餌を含むため、なわばりアユなどの大型個体には適用できない可能性がある。そこで、本研究ではなわばり行動を示すアユを対象にすることで、アユの漁場の保全に必要とされる閾値を探索した。
調査は地質的に砂を多く産出する矢作川水系巴川の中流域の瀬で実施した。現地観測では、水中目視観察により、なわばりアユの有無、体サイズを記録するとともに、なわばりアユが頻繁に摂食した石礫の露出高を計測した。アユの食み跡は小さい露出高(最小値:18 mm)の石礫でも確認されたが、なわばりアユが採餌場所として利用したのはより大きな露出高(同29 mm)をもつ石礫だった。また、なわばりアユの中でも体サイズの大きな個体ほど、大きな露出高をもつ石礫を利用する傾向が見られた。石礫の露出高の利用可能性によって、実際に利用される露出高は変化するため、その閾値を一義的に決定するのは困難だが、アユの漁場を保全するためには、食み跡の有無から予想されるよりも、より大きな露出高をもつ石礫が必要であると考えられた。