| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-238 (Poster presentation)
トドマツオオアブラムシはモミ属の樹木を寄主として吸汁する害虫であり、おもに若齢木を加害する。北海道ではトドマツの若齢造林地において高密度で発生して大きな被害をもたらすことがある。本種のコロニーにはしばしばアリが随伴して共生関係を結ぶことが知られ、主にトビイロケアリ(ケアリ)やハラクシケアリ種群(クシケ)が随伴する。ケアリは皆伐地で多く観察される種で、アブラムシのコロニーを土壁で覆うため、アブラムシ個体数の増加させることが示唆されている。一方、クシケは広葉樹林に多く見られる種で、土壁を作らないため、アブラムシを天敵から保護する効果が低いと考えられる。従って、伐採の際に広葉樹を保残した場合はアブラムシに随伴するアリがケアリからクシケへと変化して、アブラムシの増加が抑制されると予想される。そこで、伐採の有無や広葉樹の保残率の違いがアブラムシに随伴するアリの種構成とアブラムシ個体数の増減に及ぼす影響について検証した。空知地区の北海道有林において、トドマツ人工林を伐採する際に林内に生育している広葉樹を保残する保残伐施業の実験区が設定されている。この実験区のうち、5つの処理(皆伐、少量保残、中量保残、大量保残、天然林)について3箇所ずつ、計15区において、伐採の1年後にアブラムシを付加したトドマツ苗を10株ずつ植栽し、1か月後にアブラムシ個体数と随伴アリの種を調べた。その結果、伐採した4種類の処理区ではケアリが優占していたが、処理区の間でアリの種構成に顕著な違いは見られなかった。天然林ではクシケの割合は他の処理区より大きかった。また、ケアリが随伴した株では、クシケが随伴した株やアリの随伴がない株よりアブラムシ個体数が多かった。しかし、株ごとのアブラムシ個体数の増減は処理区間で有意差がなく、伐採の有無や保残する広葉樹の量がアブラムシの個体数の増減に及ぼす効果は明瞭ではなかった。