| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(ポスター発表) P3-244  (Poster presentation)

芦生研究林内保存木の保全生態学的研究ー着生植物群集と林冠土壌ー

*東若菜(京大院・農), 中西晃(琉球大・農), 駒田夏生(京大院・農), 小川裕也(京大院・農), 岩岡史恵(京大院・農), 西田圭佑(京都嵯峨野高), 神崎護(京大院・農), 野口結子(神戸大院・農), 石井弘明(神戸大院・農)

巨木は長期間にわたり生存し続けてきた貴重な生物として、しばしば保全の対象となる。京都大学芦生研究林では複数の巨木が保存木として保護されており、その幹や枝には多数の着生植物が生育している。熱帯林においては林冠着生植物群集の多様性やその生態学的機能の重要性が議論されているが、温帯林での知見は不足している。本研究では保存木の一つである樹高38m、胸高直径約5mのカツラ(Cercidiphyllum japonicum)上に生育する着生植物とそれらの基盤となる林冠土壌について調査した。ロープクライミングを用いた主幹から樹冠までの網羅的なインベントリ調査を2017年6月から11月にかけて複数回実施し、出現した維管束物植物について種と着生高を記録した。また、一部の着生植物種の葉を用いて安定同位体分析を行った。地上とカツラの樹冠で土壌を採取し、物理化学的特性の測定、真菌と細菌の群集構造を分析した。その結果、木本28種、草本5種、シダ類6種の計39種の維管束植物が記録され、そのうち6種は京都府レッドデータブックに含まれる種であった。安定同位体分析の結果、高所に着生する個体ほど葉の水利用効率が高く、窒素源を降水に大きく依存していることが示唆された。一方で、真菌と細菌の群集構造は地上と樹上で変化しており、林冠土壌における単位重量当たりの可給態窒素の量や生成速度は高かった。 以上より、対象としたカツラの樹上には地上とは異なる特有の環境条件が形成され、多様な維管束植物が生育していることが明らかとなった。芦生研究林では近年、林床におけるシカの食害が顕在化しているが、一部の種についてカツラの樹冠はその待避地となっている可能性がある。 本研究対象のような巨木の保全価値について評価する際には、巨木そのものの生物学的価値に加えて、他の生物に対する生態学的役割についても考慮する必要があるだろう。


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