| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P3-256 (Poster presentation)
全国的にも自然林が少なくなっているが、人間活動による開発の歴史が古い中国地方の森林には、本来の自然林である常緑広葉樹林が特に少なく、伐採後や火入れ後に発達した二次林が多いのが特徴である。しかし、古くから保護の対象とされてきた社寺林には自然林の断片が残存している場合が多い。
鳥取県の低標高地は暖温帯の常緑広葉樹林帯に属しており、自然林の優占種はスダジイであり、タブノキ、モチノキ、ヤブツバキ、アカガシ、ヤブニッケイなどの常緑広葉樹が混生する。ただし、部分的にはケヤキ、イヌシデ、クマノミズキ、ムクノキなどの落葉広葉樹が混生する場合もある。さらに、植栽されたと考えられるスギ、ヒノキ、モミ、イチョウなどが特に社殿近くにみられることも多い。また、近隣に竹林がある場合は、社叢へのモウソウチクの侵入がみられる。
社殿や人間に被害を与えそうな大径木については樹勢調査し、危險木診断を行うが、社叢全体の健全度を診断する場合は、樹種、胸高直径、樹高、樹齢を測定し、土壌調査や稚樹調査も併用して生態学的な調査を行う。これらのデータに基づいて森林の構造や樹齢分布を明らかにし、連続的な更新が行われ、将来も自然林の状態が維持されるかを推定する必要がある。すなわち、天然記念物である社叢や重要文化財である社殿を保護するためには、樹木医学的調査と生態学的な調査を併用することが重要である。
ここでは、これまで調査されてきた国指定あるいは県指定天然記念物である鳥取県内のいくつかの社叢を対象に、樹木医学的な樹勢調査や危險木診断だけでなく、社叢全体の生態学的な調査を行ってきた経緯や結果について紹介する。さらに、社叢を管理する場合の実例として、鳥取県倉吉市教育委員会によってまとめられた国指定天然記念物「波波伎神社社叢」保存活用計画策定報告書についても紹介する。