| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S07-2  (Presentation in Symposium)

北海道において高山植生の分布型組成が示唆すること

*佐藤謙(北海学園大学)

北海道において高山植物相と高山植生の分布型組成(清水1982, 1983)を同時に分析した結果、それらが成立した地史的背景を示唆する傾向が認められた。(1)北海道全体の高山植物相は、日本全体のそれと比較すると、北方系の汎世界要素A・周北極要素B・太平洋要素D・東北アジア要素C-1・北アジア要素C-3が高い相対値を示し、固有率はすべての分布型(とくに南方系の東アジア要素C-2と低山要素E)で低い相対値を示した。(2)森林限界を超えた領域において高標高になるほど太平洋要素D・東北アジア要素C-1・北アジア要素C-3が増加し、東アジア要素C-2・低山要素Eが著しく減少し、上記の本州と北海道の差異と同調的な傾向を示した。したがって、北海道の高山植物相は、本州と比較して隔離・遺存の時間が短かったため、また高標高地ほど繰り返された氷期のたびに植生がリセットされたため、固有植物の分化が進まず北方系植物が未分化のまま遺存したことが示唆される。他方、高山植生の分布型組成をみると、(3)山域・地域の相違を超えて個々の群落に特有な分布型組成が認められ、総じて、風衝地・雪田・雪崩地など高山の立地区分と対応する高山植生の大分類ごとに特有な分布型組成が認められた。その傾向から、例えば、太平洋要素Dが多い雪田群落は多雪・湿潤環境の時代に渡来したことが示唆される。(4)森林限界下にある超塩基性岩地や石灰岩地など特殊岩地の群落では、北方系の周北極要素Bと東北アジア要素C-1・北アジア要素C-3が比較的多く出現するが、南方系の東アジア要素C-2・中央アジア要素C-4・中国・ヒマラヤ要素C-5などがそれ以上に大きな相対値で出現した。これらの特殊岩地に見られる高山植生は、北方系と南方系と異なる分布型のいずれにおいても隔離分布種や固有植物が多いことから、最終氷期以前の古い時代に渡来したことが示唆される。


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