| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S07-3  (Presentation in Symposium)

日本の北方の植物相-北海道・千島・カムチャツカ

*福田知子(三重大学教養教育機構)

北海道の植物は北半球高緯度地方の植物相と密接な関わりを持つ場合が多く、北海道の植物を研究する上で、地理的に隣接する極東ロシアの植物相を知ることは重要である。
極東の植物相の基礎的文献として、「ソ連極東維管束植物(全8巻Charkevicz他、1985-1996+補遺)」があり、極東の維管束植物4113種が標本採集地に基づく分布図付きで掲載されている。また、カムチャツカ、サハリンなど各地の植物リストにより、地方ごとの分類群数も判明していることから、極東ロシアの植物相は現在までにかなり解明されていると考えられる。ロシアの植物相研究には、ロシア科学アカデミー傘下の研究所だけでなく、特別自然保護区の機関が、植物相等の調査などにおいて重要な役割を担っている。最近では、ロシア中央部の機関を中心に分子系統地理学的研究が始まっており、極東地域でも遺伝子情報を使った研究への関心が高まっている。
北海道に隣接する千島列島は、近年、バルカロフ(2009)、高橋(2015)により植物相がまとめられ、極東で最もよく調査が進んでいる地域である。東アジア区と周北区の境界として、従来、植生に基づき「宮部線」が択捉-ウルップ島間に認められてきたが、植物相に基づき、境界をブッソル海峡(ウルップーシムシル島間)に設定する提案がある。千島列島は、その両端に当たるカムチャツカ・北海道の植物の「回廊」的な役割を持ち(Barkalov 2009)、固有種が少ないという特徴がある。また、筆者が扱うチシマイワブキ属の遺伝子情報の比較、セリ科植物二種の中間型の存在などから、北海道~カムチャツカを含む千島周辺地域には、広範囲にわたって遺伝子交流・交雑が起こっている可能性がある。
今後は、極東の他の地域についても国際的な協力関係を構築し、北海道の植物が北東アジアの関連種との関係の中で研究されることが必要である。また、北海道の希少種保全を考える際にも、関連種との関係を踏まえた保全が望まれる。


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