| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


シンポジウム S07-4  (Presentation in Symposium)

分子データから見えてきた東北アジアにおける高山植物の生物地理

*池田啓(岡山大・植物研)

日本列島の高山植物は日本列島以北の植物相との関連が深く、第四紀の氷河時代に南下してきた起源をもつことが古くから指摘されている。分子マーカーを用いた研究により、日本列島の高山植物は、同一の種であっても、中部地方と北海道・東北地方(北日本)の間で遺伝的に異なる系統に分化していることが明らかにされ、最終氷期よりも古い氷河時代から中部地方に遺存してきたことが考えられてきた。一方で、(1) 高山植物が北日本においても中部地方と同様に遺存してきたのか、あるいは(2)北日本では最終氷期に南下した植物が分布しているのかは定かではない。
我々はロシアの研究者と共同研究を行うことで、東北アジアに分布する高山植物の遺伝的変異を解析してきた。2種の植物(イワヒゲ、ミネズオウ)では、日本列島以北の集団と北日本の集団が遺伝的に類似しており、北日本の植物は最終氷期には東北アジアの植物と同一の集団に属していたことが考えられた。一方で、他の植物(エゾツツジ、エゾツガザクラ)では、日本列島以北の集団と北日本の集団が遺伝的に分化していることが明らかにされたものの、コアレセント理論は遺伝的分化が最終氷期よりも古い時代に起源することを支持しなかった。また、アオノツガザクラでは、北海道東部の集団が日本列島以北の集団と遺伝的に類似しており、他の植物同様に、東北アジアの植物と北日本の植物が最終氷期には同一の集団に属していたことが考えられた。一方で、北海道中部と本州には独自の系統が見つかっており、本州に加えて、北海道中部にも最終氷期よりも古い起源をもつ集団が遺存していることが考えられた。これらの結果から、北日本の高山植物は、最終氷期に南下した集団に起源したものの、最終氷期以前から北海道に遺存した植物もあることが示された。本発表ではこれらの成果を紹介するとともに、東北アジアの高山植物相の変遷を考えるための課題について議論したい。


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