| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


企画集会 T11-2  (Presentation in Organized Session)

知床国立公園におけるエゾシカ個体数調整後の植生回復過程

*石川幸男(弘前大白神自然環境研), 渡辺修(さっぽろ自然調査館)

 北海道東部、知床半島では1980年代よりエゾシカが急増し、生態系に多大な影響が生じた。先端部の岬地区では1990年代後半に密度が140頭〳平方kmに達した。世界自然遺産に登録された2005年以降、ユネスコから遺産地域にふさわしい生態系の管理が求められ、2007年~2008年の越冬期から個体数調整が開始された。ユネスコからはシカ管理の効果を検証する植生側の指標を求められている。岬地区における最近のシカ密度は20頭〳平方km未満に低下し、植物の生育期としては2017年夏で10シーズンが経過した。調整開始前に山地および亜高山の高茎草原と高山風衝地群落でそれぞれ400平方m未満の防鹿柵を、また背後の森林内では1haの柵内外の固定区と100mの帯状区を設定し、柵内外で小面積の区画を設けて草本層の回復過程を調査してきた。さらに、2014年からは低頻度の種の回復状況を把握するために、長距離のラインも設けて回復過程を把握する試みも開始した。
 山地高茎草原と亜高山高茎草原の柵内では、柵を設置した最初のシーズンから植被が回復したが、遷移はやや偏向している。風衝地群落の柵内での回復は緩やかである。柵外が調査されている亜高山高茎草原と風衝地群落では、捕獲開始後、数年してから緩やかに回復が始まり、前者では植被としては大きく回復したものの、後者の回復はわずかである。森林林床の回復はわずかにとどまっている。
 植生回復の過程で反応する種にも変化が生じてきており、シカ密度低下から5年以上経過して、嗜好性の高い高茎草本にも回復の兆しが見える。シカの嗜好性と採食によるダメージの大きさの両面から影響の程度を区分し、影響を被りやすい種に着目している。低頻度の種も拾うために設定した長距離ラインでは、回復速度の早いクサフジ、オオヨモギ等のほかに、頻度の低い大型草本であるチシマアザミ、シレトコトリカブト等の変化も把握可能となり、簡便に確認できる複数の種が選定されつつある。


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