| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W01-2  (Workshop)

ナニワズにおける不完全な雌雄異株性 –両性個体の結実能力はなぜ保たれているのか–
Incomplete dioecy in Daphne jezoensis (Thymelaeaceae) –Why are low-fruiting hermaphrodites maintained?

*柴田あかり, 工藤岳(北大・環境)
*Akari Shibata, Gaku Kudo(Hokkaido Univ.)

被子植物において、個体ごとに雌雄が分かれる雌雄異株性の種は約4%と少ない。雌雄異株性の進化については、まず両性個体群に雌が侵入・維持され(雌性両全性異株)、その後に両性個体が雄個体に置き換わるという進化経路が提唱されている。一方で、雌雄異株性への進化的移行は一方向ではなく、雌性両全性異株へと戻る、あるいは雌性両全性異株は安定的な性表現になり得るという見解もある。ジンチョウゲ科のナニワズは、形態的には両性個体と雌個体からなる雌性両全性異株である。これまでの研究により、ナニワズの両性個体はまれにしか果実を作らずほとんど雄として機能している、不完全な雌雄異株であることがわかってきた。本研究では、この曖昧な性表現が維持されるメカニズムの解明を目的とする。
 両性個体のメリットとして自家受粉による繁殖保証、デメリットとして質の低い種子生産によるコストを仮定した。北海道内8個体群で両性個体の果実生産能力と自殖率を調べた。両性個体の雄機能にかかる選択圧を調べるために、両性個体の花数と雄成功度(花粉親となった種子数)の関係を解析した。また、種子生産が翌年の繁殖に及ぼす影響を調べた。
 全個体群で両性個体は低い果実生産能力と自家和合性を示した。近交弱勢が低い場合には、繁殖保証として機能する可能性がある。両性個体の雄成功度は花数に依存して増加していた。雌個体の果実生産は翌年の花生産を低下させたが、両性個体の果実生産は翌年の花生産には影響していなかった。両性個体の潜在的に低い果実生産能力はコストとして作用せず、不完全な雌雄異株が維持されていると考えられた。このように、性表現の進化的移行は必ずしも一方向的ではなく、あいまいな状態で維持される場合もある。今後は、分布域末端個体群での性表現を調べるとともに、両性個体で果実生産を抑制するメカニズムや性表現を決める遺伝メカニズムの解明も求められる。


日本生態学会