| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W02-1 (Workshop)
あらゆる現象に数の法則が内在することをピタゴラスは「万物は数である」と表現し、現象を数学的に記述することでニュートンは古典力学を確立したという。現象を記述する有効な手段として数学や物理学が存在するならば、それは自然淘汰が形作った動物の形態や動きを理解する有効な手段にもなりえるだろう。このような研究哲学はEvolutionary Biomechanicsと提唱されるなど、進化を理解する新しいアプローチとして欧米を中心に注目を集めている。このような研究の例として、鳥類のクチバシを扱った流体力学研究を中心に紹介する。そして、Evolutionary Biomechanicsがマニアックで孤立した学問ではなく、幅広い学問領域と関連した分野であることを考察する。
ウトウという海鳥は繁殖期になるとクチバシの上にツノ状の突起を備え、大量の魚を咥えた状態で飛んで泳ぐという特有の形態と行動が知られている。ウトウのツノは繁殖期に観察されることから、性淘汰によって進化した装飾と考える説がある。その一方で、ツノは雌雄ともに見られ、その大きさに性差はないという報告もあるため、ツノの進化要因は明確ではない。流体力学の観点から見ると、突起は空気と水の中を移動する際の抵抗、ひいてはエネルギー消費を増加させるため、ツノは飛行と遊泳のコストになりそうである。
ウトウのツノが飛行と遊泳に及ぼす影響を調べるため、3Dプリンタで模型を製作し、水槽内で飛行と遊泳を再現することで、抵抗と流れを計測した。その結果、ツノは飛行および遊泳時の抵抗を増加させないこと、さらにはクチバシで魚を咥えた場合の抵抗を低減する効果をもたらすことが明らかとなった。これらの結果は、ツノが性淘汰によって進化したとする説と排他的ではない。しかし、一見すると装飾のような形質が流体力学に起因する自然淘汰によっても進化しうることを示唆している。