| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨
ESJ66 Abstract


自由集会 W02-3  (Workshop)

変動する水温環境における魚類の代謝調節—秋に来るサケ、冬にくるサケ
Physiological and/or behavioral regulation of metabolism in fish against fluctuating environmental temperature – Perspectives from chum salmon

*阿部貴晃(東大・大気海洋研)
*Takaaki Abe(AORI, The Univ. of Tokyo)

代謝速度は動物の活動性と密接に関係する。代謝速度の高いネズミはキビキビ動き、低いカメはのろのろ動く。そして、体温は代謝速度に大きな影響を与える。哺乳類や鳥類のような内温動物は体内の熱産生による体温保持機構によって、高い代謝速度と活動性を維持する戦略をとる。一方で、体温が外部の熱源に依存する外温動物では、爬虫類の日光浴にみられるような体温調節をおこなう。つまり、外温動物は、適切な体温、適切な代謝速度を行動によって調節するという戦略をとる。ただ、そのような行動的な代謝調節は1日規模の時空間スケールでの温度環境の変化に対しては有用であるが、季節変動のように大きな時空間スケールでの変化に対しては意味をなさない。季節変動によって1日の平均的な体温が変わっても、外温動物は代謝速度をある程度一定に保ち、温度変化に順応する機構を備えている。本発表では魚類にみられる行動的、生理的代謝調節の一例としてサケ (Oncorhynchus keta) に焦点を当てる。サケは川にのぼって産卵し、その生涯を終える遡河回遊魚である。サケは「秋サケ」とよばれるように、日本では秋から、その遡上が観察される。しかし、サケの遡上は冬まで続き、「冬サケ」と呼ばれる系群が存在する。サケが日本沿岸に来遊する秋から冬にかけて、海水温や河川水温は大きく変動し、秋サケと冬サケは異なる温度環境を経験することが指摘されてきた。今回の発表では秋サケと冬サケに行動記録計をつけて明らかとなった行動性体温調節と、代謝速度を計測してみえてきた生理的順応の知見を提供し、様々な温度環境に対して魚類が代謝速度を適切に保つ仕組みを紹介する。


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