| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W08-1 (Workshop)
生物は、自然選択を通じて新たな環境に適応することができる。ゆえに、分布域の辺縁の集団が、直面した新たな環境に適応しつづけることによって、分布を際限なく拡大させるはずである。しかし、現実には、地球の全域に生息できる生物種はおらず、どの生物も分布は限定的である。このことは、すべての生物は、何らかの理由で分布域の辺縁において新規環境への適応が制限されていることを意味する。理論的には、分布の辺縁部での適応進化を制限する機構として遺伝子流動に関連した相反する2つのプロセスが提唱されている。一つは、辺縁部で個体群が小さくなったり、分断したりすることで、遺伝子流動が減少し、結果として多様性の供給がなくなることを通じて新規環境への適応が阻まれるのというものである。もう一つは、分布域の中心部の環境に適応した個体が辺縁部の集団に頻繁に移入することに起因する遺伝的な汚染(移住荷重)である。このような汚染的な遺伝子流動は集団の最適化を阻害し、集団を衰退させ、分布拡大を妨げるのだ。一般的には、移動能力の乏しい種や環境勾配の空間スケールが大きい場合は、遺伝子流動が相対的に少なくなり、前者のプロセスが生じやすいと考えられる。たとえば、「種」の分布限界(北限や南限)については、多様性の枯渇が適応の阻害の大きな原因になるのかもしれない。一方、分布辺縁方向への遺伝子流動が頻繁に起きる場合、すなわち、移動・分散の能力の高い種や環境勾配の空間スケールが小さい場合には後者が有力なプロセスとなるはずである。それぞれの「個体群」や「メタ個体群」の分布限界(標高限界など)では、分布中心と分布辺縁が比較的近くに存在するので、移住荷重が適応を阻害する可能性が高い。本講演では、いくつかの先行研究を紹介しながら、当該研究分野の重要性や課題を述べる。