| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第66回全国大会 (2019年3月、神戸) 講演要旨 ESJ66 Abstract |
自由集会 W08-3 (Workshop)
生物の適応阻害や分布制限を説明する遺伝的な要因に移住荷重があるが、野外で移住荷重を実証した研究は、寄主-植食者系の特殊事例に限られる。アブラナ科草本のミヤマハタザオ Arabidopsis kamchatica ssp. kamchaticaは0~3000 mという幅広い標高に生息し、標高に沿って多くの生態学的形質が遺伝的に分化している。高標高には茎・葉が有毛な型、低標高には無毛型が分布し、いずれの集団間でも交配可能である。本研究では毛形質と関連遺伝子GL1に着目し、高標高から低標高への移住荷重を立証するため、次の作業仮説を検証した。(1)高標高集団から低標高集団へ向かう遺伝子流動と、有毛形質・GL1遺伝子の流入がある。(2)GL1遺伝子型が毛の表現型を説明する。(3)毛形質とGL1遺伝子に標高間で分断化淘汰が働いている。(4)低標高集団では、有毛型よりも無毛型の方が適応度が高い。
南・北・中央アルプスから、高・低標高集団が河川で連結している流域を一つずつ選んだ。各集団30個体の葉を採集し、マイクロサテライト8座とGL1の遺伝子型を決定した。各集団の100〜200個体を標識し、毛有無・生存・繁殖を春から秋まで追跡した。その結果、(1)いずれの流域でも高標高では全個体が有毛型で、低標高では有毛・無毛型が混在していた。高標高から低標高へ方向性遺伝子流動の傾向があり、高標高のGL1対立遺伝子が低標高でも見られた。(2)二つあるGL1遺伝子座の片方で、遺伝子型が毛表現型を良く説明した。(3)マイクロサテライト座の標高間の遺伝子分化係数に比べ、毛形質とGL1の分化係数が有意に大きく、標高間の分断化淘汰が検出された。(4)低標高集団では有毛個体が無毛個体よりも、一流域では生存率が低く、全流域で果実生産効率が低かった。以上より、高標高から低標高への移住荷重が実際に生じている可能性が高い。